極上 な 時 間は誰 のも の ?







苦くて熱い珈琲を口に含む。
何時も、飲まない其れは、やはり、口には合わず、思わず顔を顰めてしまった。
彼は其れを、ふっと笑い、同じ筈の珈琲を簡単に飲み下す。

「・・・やはり、不味い。」
「そうかい?只、君の味覚が子供なんじゃないかい?」
「そんなことはない。でも・・・不味い。というか、苦いぞ、此れ。」
「苦いのが美味しいんだよ、こういうのは。」

理解出来ない、という顔をしながらも、不味い筈の珈琲を飲む。
半分ほど、飲んだ所で、カップをテーブルに置く。

「・・・なぁ。」
「なんだい?」
「・・・鬼畜め。」
「そんなこと云うんだ?せっかく、君の好きな紅茶を口直しに入れて上げようと思ったのに。」
「・・・!!!!!」
「要らないなら、僕が飲むからいいよ。」
「根性悪いぞ・・・。」
「ふーん。要らないんだね。」
「・・・・・・・・要る。」


何時もながらの会話。変わることなんて何もない。
彼が彼のまま、君が君のまま。変化などありえない。
世間のルールや、秩序から逸脱してしまった、其れは、変化などない。

永遠があるだなんては、思わないけれど。



「やはり、紅茶の方が善い。」
「君には、珈琲は未だ早かったかな。」
「子供扱いをするな。」



笑いながら交わす会話。
本気になるなど、有り得ない。だって、意味が無い。
彼と君の間で、世間の評価は消えてしまったに等しい。


彼は君が全てで、君は彼が全て。
本当は違うことなど識ってても、そうだと思い込んで、一緒に居た。
もう、何年になるだろうか。この、妙な共同生活は。
お互いの利益を目的とした此れ。



彼は、家事が出来る人を。
君は、住む所と保護者を。



奇妙な、此れは、一体何時始まり、何時終わる?
終わりを望んで要る訳ではない筈。
嘘だ。きっと、この惰性的な日々を打破したい。
けれど、そんなこと出来ない。
変化が無いようで、実は確実に変化していく。
君と彼の関係は、危うい、一本の糸。
絡んでるようで、解けそうなんだ。

解けてしまったら、箱にしまった筈の其れは、どうなるだ?
もう、要らないと、蓋をした其れは、どうする?
彼と、君と、生活が始まって、
棄てたもの。棄て切れなかったもの。
隠したもの。隠し切れなかったもの。
仕舞ったもの。仕舞い切れなかったもの。

箱には、何が入って居たっけ?
駄目だ、よ。未だ、箱の中はきっと、怖い。
耐えられないよ、未だ、あたしは確実に居るから。

棄てた筈、そんなのきっと、空想だ。体の善い現実逃避だ。
未だ、何も終わってない。終わらせている気がしてるだけ。
逃げて、其れを終わりと思い込んでいる。
其れすら、自覚したくなくて、彼に依存している。



この、奇妙な、呼び名と言葉遣いは、せめてもの、虚勢。



逃げ場所を作ってはいけないと、云う声と
此処に逃げて善いんだよ、と甘い声。
甘やかすな、危険。そう看板でも下げなきゃ、分からないと云うの?


考えたくも無い、未来。
なんで、こんなに急に?
らしくないことをするということはそんなにも?




「そういえば、何故、急に珈琲を飲みたいだなんて?」

うんざりしていた、思考を止める声。
やはり、逃げ場所を与えてくる。其れを拒むことは、出来ない。
(そんな、勿体ないこと、出来ない。)


「・・・知らん。」
「君は・・・、自分のことでしょうが。」
「鬼畜なお前なんかに言わない。」



そう云って、ベランダへと逃げる。
其れすら、お決まりのパターン化されてしまった日常。
(其れは、仕方のないことだけども。)
(最初は、寝室に逃げたけど、襲われそうになったから。)
(未遂だけど。)
(変態に襲われてたまるか。)
(あいつなら善いだなんて、絶対、思ってやるもんか。)
(そう、思ってる自体、既に、相手の掌中なんだよ。)


ベランダに出れば、未だ冷たい気温。
清とした、空気は、浄化してるよう。

「・・・お前と同じ視線になりたかっただなんて云えないよ。」

其れが、あんな思考を招いた原因でも。
其れだけは、本当で、其れだけは嘘だから。

本音、と、嘘。
どちらも簡単に口が出る。
其れが、正解だなんて、分からない。




彼が実は、後ろで、聴いてることは、既に、識っている。
もう少ししたら、極上の笑顔で、識らないふりするんだろう。

(別に、問い詰めたりしないけど。)
(なんか、自惚れているようで、厭だ。)


分かってるけれど、逃避して。
其れは、きっと本当に理解してないことよりも罪深い。


けれど、其の甘やかされて、温い逃げ場を与える彼を、拒む術を識らない。


珈琲を好む彼は、紅茶の様に甘い。
紅茶を好む君は、珈琲の様に苦い。





結局、そんなもの、杞憂に過ぎないのだ。
(だって、彼は、其れを止める気など、全くないのだから。)











幸せすぎる時間は其れだけで狂気なのだ。











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其の締め方はどうなんですか、茉姫さん(・・・)
主人公の口調がごちゃまぜなのは業とです、よ!!!!
出来るだけ、思考は女チック、口調は男チックを目指しました。
でも、本人の目指すトコは、男なので、思考にも少しずつ男らしくなるように。
結局、話は何だ?って聴かれたら、茉姫は、珈琲が苦いので嫌いです!!!ってこと。(・・・)

嘘です。否、嘘って訳でもないんだけど。
本当は、只、珈琲飲んで苦くて飲めねぇよ!!!って、軽い話を書く予定だったんですがね。
何を間違ったのか、精神系だよー。暗い、よね。
明るく書くつもりだったとか、今更だよ。

彼と、君は、只、名前を呼ばすことが出来なかったから。

相手は、鬼畜くらいが上等、だと思うんですけどね。



2006.05.15 瑞凪茉姫